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概要

本部・支部だより

「忘れられた国の礎、食料の安全保障」(投稿)

2022.01.25

名古屋支部総会懇親会(数年前)でVサインする筆者・奥田さん、隣は会員の芹川さん

「忘れられた国の礎、食料の安全保障」

名古屋支部  奥田 孝道

 今年の正月は2年振りに孫たちが埼玉から帰って来た。庭にわずかに降り積もった雪で雪合戦、走り回る子供達を追いかけ弾む声、囲む食卓で久し振りに弾ける会話。この子たちが成人した時、どうか良き時代が続きますように真に願う親心ならぬ爺心である。

戦後77年余り、私達はお陰で平和な時代を生きてきた。戦中戦争直後を除き食に不自由する事は無く寧ろ時代は何でも食べられる「飽食」の時代を生きている。これは人類の長い歴史の中でも希有な時代であると思う。果たしてこんな贅沢な時代が何時まで続くのであろうか? 今はいいが未来が、孫の時代が危ない。気付かないうちに国の礎がボロっと崩れかかっている。「今から修復していかなければ手遅れだ」と思うのは私だけであろうか。

昨年の衆議院選挙において国防安全保障やコロナ感染拡大や地球温暖化(脱酸素問題)による経済安全保障等の多くが語られたが将来の食料の問題を真剣に語る論調は殆ど見当たらなかった。私達は自国の独立、主権の確保、国民の生命と財産を守るための礎である「食料の安全保障」と言う一番大事な忘れ物をしているのではないだろうか。

言うまでも無く本来、食は1日も欠かせない最も大切な物である。ところが現代は恵まれ過ぎてその上に安住し備えを忘れた私達、特に日本は世界最大の食料純輸入国で食料自給率はわずか37%と先進国では最低水準と極めて脆弱性が高い実情にある。

日本の農業保護は欧米などに比べると非常に手薄であり自給率の低さに端的に表れている。そんな日本の未来は残念ながら非常に心もとない現状にあると言わざるを得ない。

「食料安全保障」とは十分で安全且つ栄養ある食料に誰でもどんなときにも入手出来る事を指し人間が尊厳を持って生きるために必要な最低限の保証である。その要点は国内生産、輸入、備蓄の3点で法律・制度・施策を適切に整備・運用して行く事である。

世界ではいまだに約8億人、実に9人に1人が慢性的な栄養不良に苦しんでいる不幸な現実がある(FAO報告による)。持続可能な開発目標(SDGS)においても「2030年までに飢餓と栄養不良を終わらせる」と言う目標が掲げられ、食料の安全保障は今、まさに世界が共通して抱える重要な課題なのである。

農林水産省によると2050年の世界の食糧需要量は約58億トンで2010年と比べて1.7倍と拡大する。増加する世界人口(2050年約97億人)に加えて経済発展による肉食の増加による飼料用作物の増加とバイオ燃料化が需要の増加に拍車をかける。それに対し供給面では農地面積はほぼ横ばいで単位面積当たりの収穫が1.7倍と大きく伸び58億トンとバランスするとしている。これは生産量を需要量に合わせる手法でその根拠は非常に甘いと言わざるを得ない。確かに今までは需要量に見合う生産量の拡大が「緑の革命」と言われた肥料、農薬、灌漑、品種改良等の生産技術向上による食糧増産によって賄われてきた。

でも今後の世界の穀物生産を取り巻く環境は厳しくなり地球温暖化は更に進んで異常気象の影響(干ばつや洪水)が強まり、灌漑用の地下水の低下や耕作土壌流出が増加する等のマイナス要因が増加し余程の画期的な技術革新が起きない限り単位面積当たりの収量の増加率は低減し国が見込むような大幅な単収増加はとても見込めず、世界の食糧需給は逼迫度を強めると予想せざるを得ない。現にここ数年の世界の穀物生産は伸び悩み、期末在庫率が低下しており穀物価格レベルも上昇している。中国は穀物の備蓄積み増しを始め昨今、魚類までも国際争奪戦に参加し加えて温暖化の影響で漁獲量が減少している。

更に食料を世界一多く輸入する我が国は「フードマイレージ(輸入量×輸送距離)」も最大で輸送上排出するCO2やバーチャルウオーター(輸入作物の栽培に消費される水)も極めて多い。世界の食糧需給が逼迫してくれば当然問題視にされるであろうし将来穀物輸出国が自国の都合で輸出制限や禁止をする可能性を否定できない。

以上述べた情勢を勘案すれば島国の我が国は自給率を少なくとも「50%以上」に高め一方で必要な輸入の安定確保と適量の備蓄対策がより重要になってくる。

農家に生まれ育った私としては農業後継者不足で耕作放棄地が増え食料自給率が下がる一方の現状を大変危惧している。農業や農地の復元は一朝一夕にならず日本の為政者は中長期的視点に立った我が国の食料政策を抜本的に再構築し道筋を国民に明らかにすべきである。そうする事が将来、万が一の「有事」に備える事でもあり日本の重要な礎である食料の安全保障を確保する道であり将来の孫達へ残すべき責任であろう。因みにスイスの食料安全保障政策は憲法で有事の危機管理対策として食料備蓄や供給確保について定めている。

私達は自らも昔から「身土不二(しんどふじ)」で地元の旬の食材を食べることが良いと言われるように地産地消、国産国消を心掛けて行きたいものである。